昨今市内で続々と増えているワイナリー。

1年前にはドメーヌ・フジタがオープンしましたが、

ことし6月、オーナーの藤田正人さんが亡くなりました。

ワイナリーの存続が危ぶまれる中、

新たなオーナーが、事業を継承することに。

新オーナーに、

ワイナリー、そして藤田さんへの思いを取材しました。

 

小諸市糠地区。

市内有数のワインブドウの栽培地であるこの場所に、

去年オープンしたのが、ドメーヌ・フジタです。

 

立ち上げたのは、神奈川県で高校教師をしていた、

藤田正人さん。

2015年に東御市にあるワインの人材育成施設

「アルカン・ヴィーニュ」千曲川ワインアカデミーの1期生として

1年間学び、

2021年、念願だった自身のワイナリーをオープンしました。

 

ドメーヌ・フジタで作るのは、砂糖などを使わない、

ブドウ果汁100%のワイン。

華やかな果実味を直に感じ、

混じり気のない、透き通った味わいが特徴です。

 

もっと美味しいワインを作ろうと、

熱意に燃えていたその矢先。

ことし6月、藤田さんは白血病により、帰らぬ人となりました。

 

オーナーがいなくなったドメーヌ・フジタ。

生前藤田さんは、

名古屋で経営コンサルタントとして働く織田徹さんに

事業の継承を考えていました。

 

織田さんは千曲川ワインアカデミーの7期生。

去年12月からドメーヌ・フジタで、

研修生としてワイン造りを学んでいました。

 

「畑のことを分かっている人に託したい」。

そう考えた藤田さんは、

親交があった織田さんを指名したのです。

 

織田さん

「私は東御市の千曲川ワインアカデミーに去年通っていまして、

藤田さんは1期生の卒業生ということで、私にとっては大先輩に当たるわけですよ。

そういった中で、去年12月に藤田さんの方から、

研修生を募集しているという話がありまして、

それに応募したのがはじめての出会いだったんですよね。

ことしに入って、ぶどうの仕事の始まるわけなんですけども、

一緒にやっていたところ、体調崩されて、

4月に入院されてしまったんですね。

最初は入院することになったんで、

これからシーズンに入っていく中で

畑を誰かが管理してくれないとダメになってしまうので、

そこをやってくれないかという相談を受けまして。

最初は自分(藤田さん)が退院して、必ず帰ってくるつもりだから、

それまでなんとか畑を維持してくれということで、引き受けたわけです。

ですけど、入院生活が若干長くなる中で、

やはりちょっと自信がなくなってきたんで、

経営を引き受けてくれないかと、そういう話をいただきまして。

正直言って畑を引き受けた以上に自信がなかったですね。

引き受けて自分が出来るのかどうか、すごく悩みました。

だけど、困っておられる方から相談を受けたので、

やるしかないなと、最初はそういう気持ちで引き受けましたね。

何で私に声かけていただいたかっていうところなんですけど、

畑のことを一番理解しているから、

何とかお願いしたいと言われたので、

そうであれば自分が引き受けるしかないんじゃないかなと、

そういう気持ちで引き受けました。

もちろん、名古屋に住んでいますので、

その当時はすぐに移住してとかは難しい状況だったので、

本当に自信がなかったですね。」

 

ことし4月から小諸で本格的にワイン造りを始めた織田さん。

会社員時代の元同僚や

ワインアカデミーの同期生に手伝ってもらいながら

作業を進めていますが、

その大変さは、想像以上だと語ります。

 

織田さん

「名古屋から月の半分くらいはこっちに来ていれば

なんとかできるんじゃないかなという気持ちで最初始めたんですけど、

やっているうちに、それがとんでもない思い違いだということが分かってきまして、

こんなに大変だとは正直思ってなかったです。

だから畑の今の状況というのは、

非常に病気が発生したりですね、動物に食べられたりとか、

予期せぬトラブルの連続でして、

とても片手間ではできないと、つくづく思い知らされていて、

その結果が、収穫にも表れていて、

去年よりもぐっと少ない収量しか採れていないです。

すべて正直なんですよね、農作物って。

手間をかければきちっとできるし、かけないと途端にできなくなってしまう、

そういう繊細なものなんで。そこのところは僕は最初全然理解していなかった、

それが大きな反省点。

でもそれはそういう経験をしたということで意味があったと思っているので、

来年以降生かしていきたいなと思っています」

 

ことしも新たに造られる、ドメーヌ・フジタのワイン。

織田さんに、今後造りたいワインについて聞くと

亡き藤田さんへの思い、

そしてワイナリーを受け継ぐ覚悟が垣間見えました。

 

織田さん

「僕自身こういう形でワイナリーのオーナーになるというのは、

予期してなかったことなので、

こういうワインを造りたいという強い思いがあって引き受けたということではないんですよ。

だから、本当に正直なことを言うと、

藤田さんが目指していたワイン造り、

ワインのスタイルというのをなんとか僕の手で実現したいというのが、

第一段階として、僕自身の目標でして、それを何年かやっていきたい。

特に藤田さんは去年初めて醸造所を建てて、

はじめて自分でワインを造られた。

ワインができたタイミングで亡くなられてしまったので、

まだまだやりたいことは山ほどあったはずなんですよ。

それを自分の手でひとつひとつ実現していきたいというのが、私の思いですね。」

世界中を旅する中、

ワインの銘醸地、フランス・ブルゴーニュ地方に感銘を受け、

ワイン造りを志したという藤田さん。

生前、ワインと小諸への思いを、このように語っていました。

 

藤田さん

「ワインっていうのは作り手によっていろんな味わいがしてくるんですよね。

フランスとかカリフォルニア行っても、

みんなワイナリーめぐりするの。

そうするとワイナリーによって同じ地域のブドウなんだけど、

味わいが違ったり、そういうことがあるんですよね。

そういう風に小諸もなればいいかなと。

それがすごく楽しいことなんですよね。

こっちのワイナリー行ってテイスティングして、

またこっちのワイナリー行ってテイスティングして。

そういう風に小諸がなっていくのが理想かなと思いますね。

でも、十分そのポテンシャルはあるので、

いいブドウ採れるので。近い将来できると思います。」

 

織田さん

「藤田さんから言われていたのは、

ブルゴーニュに自分自身で行って、

そこで現地のものをみて味わって、見聞きして、

それで藤田さんが目指していたものがどんなことなのかというのを、

まず理解してほしいと、生前言われているんです。それをしたいなと思っています。

ことしの収穫が先週末から始めているわけですけども、

去年藤田さんが収穫されたものよりかなり少ないです。

自分自身が足りてないところできてなかったところが全て反映されて、

ことしのブドウの出来になっているわけです。

だけど、とりあえずは採れましたよと。

出来は悪くて量も少ないですけど、とりあえず採れましたということは、

真っ先に報告したいですね。

その次に報告したいとすれば、それでワインが出来ました、

できれば良いのができればいいんですけど、

そこまでいって初めて何とか引き継いでやっていますよと、

いえるかなと思います。」

 

藤田さんの思いと夢を受け継いで。

織田さんの挑戦は始まったばかりです。